第1回【仕事と子育て】カウンセリングシンポジウム
基調講演「これから変わる【仕事と子育て】両立支援」
坂東眞理子 (NPO法人【仕事と子育て】カウンセリングセンター理事長)
なぜ日本では、女性が働き続けられないのか
先ほど申し上げましたように、育児休業制度はどんどんと充実してきています。特に2003年に次世代育成支援推進法が出来てから、女性の80%が、男性の10%が育児休業をとられるようにという目標を立てていました。女性は早々と80%が育児休業をとれるようになってきています。男性はまだ0.4%なのですが、それにしても育児休業を取ることは不可能ではなくなってきています。しかし育児休業を取っている人は正社員の人で、非正社員の人はほとんどとっていません。働き続けようと思っている人はとるのですが、その前にいくら正社員で育児休業をとる権利があってもやはりお母さんでいたい。フルタイムで子どもを育てるのが私の人生の価値だと思って、そちらを選択する人がたくさんいます。その人たちが3分の2を占めています。働き続けているのは3分の1でその中で育児休業をとっている人がやっと8割になってきたというような状況です。それではどのように背中を押してあげなければいけないのか。何が足りないのか。 1つには、私はロールモデル、つまり身近なお手本がいないことが理由だと思います。例えば私も公務員で子どもを二人育児休業も無い中で働き続けてきました。公務員は、仕事はかなりきつく、午前様は当たり前というような世界にも関わらず、結構子どもを持って働き続けている人がいます。その理由の一つはロールモデルが周りにいて、育児休業を取ってまた復帰してくる人がたくさんいる。そしてそういう人たちが課長になり局長になりというお手本が身近にいるからです。
しかし民間企業の方々の多くは、ロールモデルが身近にいません。例えば育児休業制度で休職後、復帰してきて自分の居場所が無い。企業側ではこの人たちにはまだ小さい子どもがいるのだからあまり無理させてはいけないという好意で暇なポストにしばらく人事異動したつもりでも「私はこの会社では必要とされていないのだ。私の将来の見通しは暗くなってしまった」ということで潔く辞めましょうということになるのです。優秀な女性ほど周りに迷惑をかけてまで仕事にしがみつきたくないということで、潔く辞めるというようなことをします。このようなときに、「そこで潔く辞めなくても良いのだ。会社はあなたに好意をもって、あまりこき使わないようなポストに移してくれたのだ。そして人間は落ち込んでいる時もあるけれども、また環境が整ったらいくらでも能力を発揮するチャンスが巡ってくるのだ」というアドバイスをしてくれる人が周りにいない。このようなロールモデルが大変に少ないということが、育児休業をとりにくい、仕事と子育てを両立しづらいという大きな理由になっています。
2つめはそれとも絡むのですが、長期展望が持てないということです。私は18、19歳の学生に「自分の40歳の時、50歳の時、60歳の時どのような人生を生きていたいですか。」と聞きますが、40歳の私は想像したくもないというのが18、19歳の女の子の感覚です。40歳というのはすごくおばあちゃんのように思っています。でも人生の折り返し地点は44歳です。女性の人生がすごく長くなってきているので、出産・育児に費やす時間が2年でも3年でも相対的に人生の中に占める割合として非常に少なくなってきています。
長い人生の中でどのように自分の仕事・出産・育児、同時に自分をいかにパワーアップしていくのか。今の日本の女性たちは、長期的な展望を持つということが十分ではないという気がします。実は、女性たち自身が将来展望を持っていないだけではなく、企業の側も有能な女性たちをどのように能力を発揮してもらえれば良いのかを手探りしている状態なのではないでしょうか。
例えば、管理職という形が良いのか高度の専門職という形が良いのか。あるいは日本の会社の人材育成の時には避けられないものと思われていた転居付きの人事異動。色々なところを経験しなければ会社の経営を任せる人材にはならないのだと信じ込まれています。それは本当に必要なのであろうか。もっと女性たちが能力を発揮しやすいようなキャリアパスを考えても良いのではないか。長期的なある時に全力投球が出来ます。ある時は軽い仕事に留まります。それを繰り返しながら人間として、人材として成長していくというような展望を持つことがこれからの日本の女性自身にも、企業にとっても必要なのではないかと思います。
3つはよく言われることですが、ワークライフバランスあるいはダイバシティといったことが日本の社会経済を持続させるために不可欠だということです。サステナブルつまり持続できる成長。これは環境の言葉になっていますが、実は人材・労働力の分野でも持続できる体制を作らないと日本の社会・経済は上手く機能しないのではないかと思います。
今の日本は先ほども言いましたように、非正社員にして使い捨て・使い捨て・使い捨て。安いときだけ成果主義・業績主義で働いてもらいましょう。5年先・10年先の人材を養成するうことを無視しています。人件費はコストだと思っています。このような経営をしている企業は社会的な責任を果たしていないと思いますが、残念ながらコストカッターでないとグローバルな競争は勝ち抜けないとが言われています。
しかし、これは全く間違いで、むしろこれからグローバルな競争に勝ち抜いていくためにこそ、ワークライフバランスとかダイバシティと色々な人たちが自分の能力や環境に応じて力を発揮できるようにしていかなかったら駄目なのです。賃金を安くすることで競っていたら、途上国の人たちに勝てるわけがありません。
日本がこれから目指すべきは、安い労働力と競争することではなく日本人ならば生み出せる新しいアイデアとか新しいサービスとか高い技術レベルのものを生産する人材です。そのような人材は男性でも女性でもたくさんはいません。可能性のある人たちを大事に育てることがこれから大変重要になってくるのではないかと思います。私はそのような意味で女性が仕事と子育てを両立して一時期全力投球は出来ないかもしれませんが、持続的に仕事を続けていくことによって日本の企業は人材・貴重な才能を取り逃がさなくても済むのではないかと思います。
そのようなことを考えますと、仕事と子育ての両立支援、特に働く女性たちが抱える問題は一人一人すべて違います。会社もそれぞれ違った事情を抱えています。そうした一人一人の状況に合わせて、相談にのりアドバイスにのる、背中を押してあげるといったことをすることによって、色々な障害を乗り越えて女性たちが自分たちの豊かな人生の展望を得ることが出来るのではないかと思います。